「コンフォートゾーン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
日本語で「快適な領域」という意味になります。
例えば普段買っているいつもの雑誌や新聞、コンビニに寄るといつものジュースを買う行為、おはようからおやすみまで何気なく行っている習慣。
それらが全て「コンフォートゾーン」に含まれるのだ。
人は一度その習慣にハマるとなかなか抜け出すことができない。脳は変化を嫌うようにできているので「痩せたい」と思ってもつい余計に買ってしまう。
また、多くの人が「コンフォートゾーン」から抜け出せなくなってしまうのはその空間に慣れきってしまい「外側の世界をすっかり忘れてしまう」からだ。
そのような状態に警告を発した絵本がある。「うさぎの島」だ。
うさぎ工場のうさぎと外から来たばかりのうさぎ。彼らの明暗を分けた違いとは?
「うさぎの島」と言ってもあの広島県にある大久野島のことではない。1977年にドイツのイエルク・シュタイナーとイエルク・ミュラーによって書かれた絵本だ。すでに絶版状態だが図書館などで閲覧することができる。
ストーリーは食肉用のうさぎを育てる工場に新しいうさぎが連れてこられるところから始まる。小さな茶色うさぎが入れられたせまい小屋には長年住んでいる大きな灰色うさぎがいた。
おびえる茶色うさぎに灰色うさぎは「ここから出る方法がある」ことを教える。しかし、長年の工場での生活で灰色うさぎは外の世界のことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
それでも茶色うさぎの為に勇気を出して一緒に工場を脱出した。
一見、よくある脱出劇。しかし物語はこの後意外な展開をむかえるのだ。
予想もしなかった外の世界に疲弊した灰色うさぎは工場へ戻ることに
長年閉鎖された空間とたくさんのエサで野生の本能をすっかり失ってしまった灰色うさぎ。
そんな彼にとって外の世界は地獄そのものだ。茶色うさぎはおびえる彼に困ってしまう。結局灰色うさぎはもといた工場に戻る道を選ぶことになるのだ。
「きみは勇気があるよ。それに世の中をよく知っている。おれはだめだ、なにもかもわすれちまって」
なんということだろうか。勇気をふりしぼり外の世界に出たにもかかわらず、元に戻ってしまう。
今までとは違う「居心地の悪い場所」に置かれると、元の状態に戻るように力が働いてしまう。
「どうせ自分には無理だ」と。
「想像力」の強さが居心地の良い空間からの脱出のカギになる
茶色うさぎの興味深いセリフがある。
「でも、ぼくは工場がぜんぜん気に入らないよ。」 「それに、工場からつれだされたふとったうさぎたちがどうなるのか、ぼくたちは、まだつきとめていないじゃないか」
茶色うさぎにはまだ壮大な想像力があった。だから灰色うさぎと違い、外の世界への脱出に成功したのだろう。
環境というのはとても恐ろしいモノだと思う。人を再起不能にしてしまうくらいに「洗脳」してしまうのだから。そこから再起するためには「想像力」を最大限に生かしてコツコツと積み重ねていくことで自分を変えていくことができるのではないだろうか。
30年以上も前から動物と人間そして環境問題をテーマに絵本を通して著者が教えてくれるこのメッセージは今も色あせない。
この著者のコンビによる作品には、冬眠していたクマが突然ガラリと変わった環境に翻弄される「ぼくは くまのままで いたかったのに…」もオススメする。
自分が今いる「環境」 それを「変える」には? この絵本はその道すじを示してくれる1冊だ。